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第6話 経験に基づく粘土の改良 〜昔の人の知恵〜

水簸(すいひ)による粘土の精製

 粘土は天然中に多く存在します。その生成は火山活動や地中活動・風化によるものであるため、粘土の中には粘土鉱物だけでなく、様々な不純物(ゴミ)が含まれます。陶器・レンガなどを作る際にはこの不純物が重要な役割を果たす場合もありますが、それらに向かない割合で不純物が入っている場合は取り除く必要があります。科学技術が発達する前から粘土の精製・分離の手法は経験的に確立されてきました。
 粘土を良く砕き、それに水を加えてよく混ぜます。それをふるいにかけて大きな砂利などを取り除きます。それを静置(揺らさないで静かに置いておく)しておくと、粒子の大きさに係わらず比重(重さ÷大きさ)の違いによって重たいものから先に重力に引っ張られて沈んでいきます。この沈むスピードの違いによって、粘土鉱物だけを取り除くことができます。この方法を水簸といいます。

尿素を用いたカオリン族粘土の微細化 〜陶芸用粘土の改質〜

 上でお話したように、スメクタイト族の粘土は水によって剥離・再積層を繰り返すためその粒子サイズはもともと小さく、また用途に応じて水を加えることでその性質を変化させることができます。しかしカオリナイトなどのカオリン族粘土は層間に水を取り込むことができず、粒子サイズも大きいため陶器などを作る際にしばしば問題となります。そこで古来中国の先人は経験的にカオリンを陶芸に向く粘土に改質する方法を編み出しています。
 カオリナイトは水を層間に取り込むことはできませんが、尿素という物質を取り込むことができます。尿素はその名前の通り、我々が日々する尿の中に含まれる成分で、お肉などを食べることによって体内で精製します。この尿素を層間に取り込んだカオリナイトを小さく砕くと(臼で粉を挽く)、カオリナイトの粒子が小さくなることが知られています。小さくなったカオリナイトは可塑性(陶器など形作ることができる性質)がまし、陶芸に向く粘土となります。
 古来中国の人々は、こんな科学的なこと(尿素によって粒子が小さくなること)はもちろん、尿素という物質があることも知りませんでしたが、経験的にこの方法で粘土が陶器に向くようにする方法を知っていました。中国の宋の時代(A.D. 420〜)の陶器を分析した結果、人の尿が含まれていることが分かりました。つまり、粘土に尿を混ぜておくことで、尿素の働きによって陶芸用の粘土になることを宋時代の人々は編み出していたのです。


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第7話 人間の先祖はサル?いやいや粘土です!

 子供の無邪気な質問に「僕はどこから生まれてきたの?」というものが有ります。よくある答えが、「お母さんのおなかの中よ」とか「コウノトリさんが運んできてくれたのよ」とかでしょうか。では、「最初の人間はどこから生まれてきたの?」という質問にはどのように答えるでしょうか?宗教的な話になれば「神様がおつくりになった」となるのでしょうが、科学者がこんなことを言うわけにはいきません。そこで登場するのが「ダーウィンの進化論」。全ての生命は進化を遂げていくというもので、人間の先祖がサル(類人猿)であったことは今なら誰もが知っている常識でしょう。じゃあ、「サルはどこから進化したのか?」というように遡っていくと、地球上に初めて誕生した生物はアメーバなどの単細胞生物です。単細胞生物はその名前の通り一つの細胞からなっており、分裂することで増えていきます。ではこの「単細胞生物がどこから生まれたのか?」という問いに対しては原始の海で生まれた説や海底火山近傍で誕生した説などが有力視されていますが決定的な証拠は無く、現在も様々な研究がなされています。
 実は、この生命の誕生に粘土が一役かっていたと言う「粘土生命起源説」という考えがあります。生命の細胞を形成するたんぱく質はアミノ酸からなっており、このアミノ酸が合成され、かつ有効なたんぱく質となるように種類・順番等が規則正しく結び合う必要があります。アミノ酸の合成に関して、海中でどうのようにして選択的に合成されたかという問題が未解決であり、「その選択的合成が粘土が存在したため、粘土の粒子のエッジ(縁)の部分で起こった」という考えが粘土生命起源説といわれるものです。もっともこの説に関しても、他の説に比べて有力な証拠があるわけではなく、現在も様々な研究がなされていますが、日常触れ合っている粘土から自分たちが生まれたと知ったら粘土を見る目も変わりませんか?
 
粘土が我々人類の母なのかもしれませんよ。


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第8話 粘土は巡る 〜粘土の誕生と終わり〜

 皆さんは「水の循環」というものを知っていますでしょうか?雨が降って、その水が川の流れとなって海にたどり着き、海で暖められた水が蒸発し空に上り、空で冷やされて雲となり、そしてまた雨を降らせる。このように水は「雨→川→海→雲→雨」といった循環を繰り返しています。実は粘土も水の流れと同じように自然界を循環しています。ただ一番の違いは水が空に上るのに対し、粘土は地中の奥底に沈んでいくのです。

 さて、粘土がどのように循環するのかを話す前に、粘土がどのようにしてできるのかをお話しなければなりません。粘土は土の仲間ですが、土の仲間には粘土のほかに岩石や石、砂などがあります。一番大きな岩石は長い年月雨や風にさらされると、少しずつ割れたり、削れたり、溶けたりして小さくなって行きます。これを「風化」と呼びます。このようにして岩石が小さくなっていったものが石・砂です。岩石や、石・砂が小さくなっていく過程でできる一番小さな物が粘土です。つまり粘土は岩や石が雨や風によって削り溶かされることによってできるのです。粘土は砂よりも小さく、一粒一粒がとても軽いので風や川の流れなどに乗って遠くまで移動していきます。そうして海までたどりついた粘土は海底に沈んで行きます。粘土は次から次へと流されてきますから、海底の粘土は少しずつ、地面(海底)下に沈んで行きます。

 海底に沈んだ粘土はどうなるのでしょうか?実は地面の下は深くなればなるほど温度が高く、強い圧力がかかっています。つまり粘土は少しずつ沈みながら、だんだん暖められ、回りから強く押されるようになります。この過程で粘土は他の鉱物に変化していきます。さらにとても高い温度と圧力がかかるようになると粘土は全て融けてしまいます。この粘土や鉱物が溶けたものがマグマです。地中奥深くでできたマグマは火山の噴火で地上に噴出したり、地中の運動(地震の要因であるプレートテクトニクスと呼ばれるものなど)でゆっくりと冷やされながら地上に隆起したりします。このようにしてマグマが地上にでて固まったものが岩石です。あれ、初めの岩石に戻ってきましたね?

 そう、このように粘土は地面の下、深いところを通って循環しています。その流れは、「岩石→石・砂→粘土→川・風で運ばれる→海底→地面の下に沈む→マグマ→火山の噴火→岩石」となっているのです。ほら、なんとなく水の循環と似ていませんか?水と違うところは、空ではなく地面の下を通ることと、水に比べて循環の早さがとっても遅いことです。


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第9話 村を彩る粘土 〜南フランスを彩るオークル〜

 粘土は、その「焼き固まる」といった性質を持つため、古来から陶磁器・レンガ・壁など様々な物に使われてきました。粘土はその産地によって様々な成分を含むため、焼き固まり方や成形性(形の作りやすさ)なども大きく違っています。また、含まれる成分によっては白色であったり、茶色であったり、赤色であったりと様々な色を持ちます。今回は、そんな粘土の「色」を使ったすばらしい家作りの知恵についてお話します。

 南フランスのリュベロン地方にある山間の村「ルシヨン」。南フランスでは家の壁は黄色を基調とした色に染め上げられていますが、この村の家々は美しい赤色の壁を有しています。この赤い壁、当然ペンキなんかで塗ったものではなく、自然の土の色を利用しています。
 この地方では「オークル(ocre)」と呼ばれる赤土が良く取れます。口紅などの化粧品にオークルと呼ばれるカラーがありますが、オークルはフランス語で「黄土色」という意味です。このオークルの地層があるところは山肌も赤く染まっています。赤土はヘマタイト(赤鉄鉱;α-Fe2O3)という酸化鉄の鉱物が主成分であり、赤い色はこれに由来します。我々の身近にある酸化鉄といえば、鉄さびであり、さびの赤色がより鮮やかになったものを思い浮かべてもらえば、オークルのイメージもつくと思います。



 ヘマタイトの写真です。結晶や鉱物は赤い色をしていますが、よく研磨することでこのような金属光沢を見ることが出来ます。






 赤土は世界各地で取れ、産地によって名称も異なりますが、古くから顔料(色を付けるための粉)として用いられています。主成分が酸化鉄ですので耐久性に富んでおり、変色することもありません。上記ルシヨン村では取ってきたオークルを砕いて粉末状にし、粘土質などと混ぜることによって顔料として用いたり、レンガなどの着色に用いていました。
 現在でも、顔料やセメントの着色剤、絵の具などに用いられています。また、粘土鉱物・長石・石英(陶器やレンガに使われる天然の粘土にはこれらが含まれている)などの原料に混ぜ込んで焼くことで、赤色〜黄土色のタイル・レンガを作ることが出来ます。

 昔の人は経験的にこの赤土を絵の具として使い、家の壁を染め上げることを学びました。このように土や粘土、岩石など、それこそ人間が生まれてくる前からあるような材料を用いた技法は、はるか昔から経験的に学び、使われてきたのです。


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第10話 粘土で綺麗になろう!


 粘土のお話第二話の中でも書きましたが、石鹸やシャンプーには粘土が使われている物があります。なぜ粘土を石鹸に入れるのでしょうか?「土や泥がついてよけいに汚れるんじゃないか?」と思われる人もいるでしょう。ところがどっこい、石鹸に入った粘土はとてもいい働きをするのです!

 従来の(そして今でも使われているほとんどの)石鹸、洗剤などには「界面活性剤」という成分が多く使われています。人の仲や相性が非常に悪い状態を「水と油」と言いますが、この言葉の通り水と油を混ぜようとしても完全に分離してしまい、混ざりません。界面活性剤は、水・油のどちらとも良くなじみ、水と油を結びつける働きをします。マヨネーズを作る時に、油とお酢だけでは混ざりませんが、卵黄を入れることで油とお酢が分離しなくなります。これは卵黄の中に含まれる「レシチン」という界面活性剤成分が働くからです。
 このような界面活性剤をなぜ石鹸に入るのでしょうか?それは石鹸の主たる目的、「汚れを落とす」ためです。顔など皮膚の表面の汚れは皮脂や化粧品などの油汚れです。これら油汚れは当然「油」ですから、ただ水で洗っただけでは水に溶けず洗い落とすことが難しくなります。そこで界面活性剤を入れることで、界面活性剤が油汚れに吸い付き、水と油汚れが混じるようにして汚れを落としています。

 現在用いられている多くの石鹸、洗剤には人工的・化学的に合成された界面活性剤が用いられており、「合成洗剤」と呼ばれています。これら合成洗剤の中には、環境ホルモンを含んでいる疑いが指摘されている物や、排水によって湖沼の富栄養化を促進させている物など、環境・人体に悪影響があるものが存在することが分かってきました。もちろん、界面活性剤には卵黄のレシチンのように天然に存在する物も多くありますので、全ての界面活性剤が環境・人体に悪いということはありません。ただ、昨今の健康志向、自然志向から、化学薬品を使わない天然由来成分のみで作られる石鹸・洗剤が注目されています。自分で石鹸を作られる方も最近では増えているみたいですね。

 そこで登場するのが粘土です。石鹸に入った粘土は台所の食器洗いようのスポンジのような働きをします。一つはスポンジの裏の硬い部分。粘土の非常に小さい粒子が毛穴などの汚れもかき出します。もう一つはやわらかいスポンジの部分。スポンジが水を良く吸うように、粘土が汚れを吸着します。
 このような粘土を使った石鹸・洗剤は界面活性剤などの化学薬品で肌が荒れ易い方(アレルギーなど)には、まさに「体に優しい石鹸」と言えると思います。

 そんな粘土を使った洗顔料の一例を紹介。写真の洗顔料はルナレーナ化粧品が作っている「白色粘土の洗顔料フレッシュアップSP」。界面活性剤、油分を一切使わず、白色粘土(カオリン)と水を主成分とした洗顔料です。取扱店「e-洗顔屋」に詳しい説明が書いてありますので興味をもたれた方は一度ご覧になってはいかがでしょうか?

注意:私は医学・薬学の専門家ではないので、この商品の効果を保証するものでは有りません。あくまで粘土を使った石鹸の一例としての紹介です。







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