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「粘土のお話」では楽しみながら粘土のことを知っていただきたいと思い、皆さんが興味を持っていただけそうな内容について簡単に紹介してきました。一方「粘土の科学」では、科学者のひよっことして専門的・学術的な内容について記述して行こうと思います。極力分かり易く解説するつもりですが、専門用語等が増えていきますので、学術的なことに興味の無い方は「粘土のお話」をお楽しみください。
私も粘土を扱う専門家の端くれとして記載内容には慎重を期しますが、間違い等があった場合にはメールなどでお知らせください。
目次
1.粘土鉱物の構造と分類
1.1 粘土と粘土鉱物
1.2 粘土鉱物の生成
1.3 粘土鉱物の構造
参考文献
1.粘土鉱物の構造と分類
初めに粘土の性質を決定付ける主要成分である粘土鉱物についてその定義、生成からその構造と分類・特徴についてまとめる。
1.1 粘土と粘土鉱物
古来から土器や建材として利用されてきた粘土は、構造解析技術が進歩する前から、目に見える性質によって定義されて来た。つまり、岩石・岩盤などが風化・変成することによって生成した「土」の中で、以下に示す粘土の持つ重要な性質を有しているものを「粘土」と定義したのである。この「性質による定義」は粘土を実際に材料として用いる窯業などの立場からみた定義といえる。
可塑性
物質に力を加えると変形し、力を除いてもその形を保つこと。粘土をこねて器を形作ることが可能であり、焼く前から力を加えなければその形を保つことができる。
水を加えると粘性が出る
粘土は水を大量に吸収することができるため、水を加えていくと粘り気を帯びる。さらに水を加えていくとゲル状(ゼリー状)となり、最終的には粘性の高い液体、液体(水が大過剰の場合)と変化する。
高温で焼成すると焼しまる
陶器・レンガなどに代表されるように、粘土は可塑性が高いために成形性が高く、様々な形を作ることができるがそのままでは力を加えたり水をかけることによって簡単に崩れてしまう。これを高温(1000℃〜)で焼成すると、粘土から水が抜け、粒子同士が強く結びつくため(ガラス質による粘土粒子の結合)ある程度の力を加えても形が変わることが無くなる。
一方、土を我々の大地として考えた土壌工学・地質工学などの分野ではまた異なった分類がなされる。それは、粘土の粒子一つ一つの粒子の大きさによる分類である。粘土は岩石・岩盤などが長い年月をかけて雨・風にさらされ風化・変成することによって生成するため、当然粘土になる前の大きな粒子も存在する。砂・土の粒子サイズによる分類は以下の通りである
礫 (れき) > 2mm
粗砂 2〜0.2mm
細砂 0.2〜0.02mm
シルト 0.02〜0.002mm
粘土 < 0.002mm
このように様々なサイズに分類される粒子によって「土」は成り立っているが、轢や砂の割合が多ければ砂的な性質が顕れ、シルト以下の粒径の割合が大さければ粘土的な性質が顕著になる。このような分類は、土壌の保水力や地盤の強度などに大きな影響を与えるため、「地面」としての土の定義と言える。
一見何の関係も無いように見える二つの定義だが、粘土の性質はその粒子サイズに追う部分も大きく、一般に粘土に定義されるものはこの二つの定義を満たしている場合が多い。もっともどんなものでも粒子サイズが粘土と同じであればこのような性質を示すわけではなく、天然に「土」として存在しているものに限られる。
これらの定義に加え、分析技術の向上に伴いその成分・構造などが示されたことから、これらの情報によっても粘土を定義することができる。詳しくは後で(1.3;粘土鉱物の構造)で述べるが、粘土の中には似た構造・組成をした成分が存在していることが分析によって分かった。これらはClay
Mineral(粘土鉱物)と名づけられた。
その組成はSi(シリコン)、Al(アルミニウム)を基本とし、このSiやAlが他の元素に置き換わったり、複数存在している物も多くあるが、その構造はどれも層状構造をとっている。粒子のサイズは粘土のそれと同じで数μmから数十μmである。粘土の性質(可塑性・粘性など)はこの粘土鉱物によるところが大きく、粘土鉱物の組成(種類)と粒子サイズによって大きく異なる。現在では、人工的に合成される無機化合物も可塑性・粘性などを示すものが知られており、この「粘土鉱物を主成分として有する土が粘土である」という定義が厳密な粘土の定義であるといえる。現在粘土として知られているものは全てこの条件を満たしているのである。
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1.2 粘土鉱物の生成
我々の大地の表面はそのほとんどが粘土によってできている。しかしその大部分には礫・砂・シルト(長石・珪砂・石英など)が多く含まれており、可塑性などの粘土の特性が乏しいため、粘土であることが知られていない。このように大地表面を覆い尽くす粘土鉱物は、地表での風化作用、地中での続成作用・熱水変質作用など様々な成因によって生成している。ここではそのような粘土鉱物の成因とその原理について解説する。
風化による粘土鉱物の生成
雨や風、または太陽の熱などによって岩石・岩盤は少しずつ削られ、礫や砂などに粉砕・細粒化される。また、温泉や地下水、雨などによって目に見えないようなゆっくりとした速度で徐々に溶かされ小さくなっていく。これらの現象を「風化」と呼ぶ。風化には雨・風によって削られていく物理的風化と、水によって溶解されていく化学的風化の2種類がある。
物理的風化の主たる要因は太陽の熱や雨などによる温度変化に起因する膨張収縮である。一般に物は熱をかける(温度が上がる)と膨張し体積が大きくなり、放熱する(温度が下がる)ことによって収縮し体積が小さくなる。膨張収縮を繰り返すと岩石が疲労破壊し、粒子サイズが小さくなっていく。つまり、膨張と収縮を繰り返すことによって、その変化に耐えられなくなり砕けてしまう。この膨張収縮係数は岩石・鉱物の種類によって異なる。この違いに最も影響を与えるのは石英(SiO2結晶の一つ)の存在で、石英分の多い花崗岩・流紋岩などは膨張収縮が大きく、石英を含まない石灰岩・玄武岩などは膨張収縮しにくい岩石である。しかし、膨張収縮のしやすさ=疲労破壊のしやすさというわけではなく、チャートのような膨張収縮の体積変化の影響を吸収できるような空孔を有する岩石は疲労破壊をしにくいことが分かっている。一方、膨張収縮係数の異なる複数の鉱物からなっている花崗岩や流紋岩などは、その膨張収縮の度合いが岩石内で異なるためゆがみが生じ疲労破壊しやすいことが知られている。風化によって生成した粘土層を見ると、色や粒子のサイズ、硬さなどのそろった幾つかのドメインからなっていることが分かる。これは同じ条件で長時間風化されたことによって同じ粘土鉱物が生成していることを示しいる。このように岩石から粘土鉱物が生成するには長時間同じような環境・条件で膨張収縮が繰り返されることが必要である。
化学的風化に最も影響を与えるのは雨や地下水といった水の存在である。岩石と水が同時に存在する場合、それぞれの平衡係数に従い非常に緩やかだが岩石の溶解・加水分解が進行する。地殻中の多くを占める長石はケイ素とNa,
Ca, などからなっており、これらアルカリ金属・アルカリ土類金属は比較的容易に溶解する。長石の溶解の例としては、
[1] 長石(KAlSi3O8)+ CO2 + H2O → K+ + HCO3- + H4SiO4 + 粘土鉱物 (不等式)
などである。生成する粘土鉱物は風化の条件や共存イオンなどによって異なる。
風化の速度や生成物の種類・構造は、気温・温度などの気候的因子や造山運動・断層・地理的条件などの地質・地学的因子、岩石や水の組成といった様々な条件によって影響を受ける。また、天然には動植物など生物に関する有機分も多く含まれるため、これらの影響やバクテリアなどの生物が行うバイオミネラリゼーションの影響を無視することはできない。これらの条件のうち、気候的・地理的因子を一定と見た場合(温度・圧力が一定)、岩石の風化反応は上に示した
[1] 式のような岩石と水の組成に基づく化学反応としてとらえることが可能である。つまり、岩石が水により溶解され、溶解し易い成分から脱離していき、時間をかけて様々な粘土鉱物を形成していく。一般的な自発反応(この場合は化学的風化反応)は、エンタルピーがより低い状態へと進むため(エネルギー的により安全な状態に変化する)、徐々により安定な構造へと変化していく。この風化反応においては、初めの岩石の構造・組成に大きく影響を受けるため、風化初期ではバーミキュライト・スメクタイトといった粘土鉱物が主に生成し、風化の後期では、初めの構造に無関係なカオリナイトやギブサイト・アルミナなどが生成する。
| 主な生成物 | 構造・組成 | 結晶性 | 粒子サイズ | |
| 風化初期 | バーミキュライト スメクタイト |
岩石・鉱物の構造や組成に強く影響を受けている | 低い | 小さい |
| 風化後期 | カオリナイト 金属水酸化物・酸化物 |
岩石・鉱物の構造や組成に無関係 | 高い |
大きい |
化学的風化による粘土鉱物の生成にはもう一つの過程が存在する。それはいったん溶液中に溶け出したイオンや小さなクラスターなどが、溶媒(水)の揮発や沈殿などにより凝集することによって、新たな粘土鉱物として析出する過程である。例としては、シリカ―アルミナガラス→アロフェン・イモゴライト→ハロイサイト→カオリナイトといった、ハロイサイト・カオリナイトなどの粘土鉱物の生成過程である。水溶液中の希薄なAlイオンやSiイオンがアロフェンとして沈殿し、時間をかけてより安定な構造であるハロイサイト・カオリナイトへと構造が変化していく。
このように化学的風化作用を熱力学でとらえた場合、岩石と水の組成によって支配される、エネルギー的に安定な構造へと変化していく過程と考えることができる。
天然では物理的風化と化学的風化が同時に起こる。物理的風化による粒子サイズや密度の変化は化学的風化の速度などに大きく影響を与えるなど、両者は密接な関係にある。これら物理的・化学的風化を合わせた自然界の中での風化では、鉱物の種類によって風化され易さ(風化速度)が決まっている。これらの順番を示したものを風化系列という。下に風化系列の例を示す。図の中で下に行くほど風化されにくい(風化に対して安定な)鉱物である。

この系列は純粋な鉱物としての長石やかんらん石、輝石などの風化のされ易さを示しているので、これらが複雑に混ざり合った花崗岩やはんれい岩などの岩石の風化のし易さとはことなってくる。岩石中の各鉱物の状態によっては、風化しやすい鉱物を多く含んでいても風化が遅い岩石が有り、その逆の例も存在する。
続成作用による粘土鉱物の生成
風化によって生成した粘土鉱物は、雨・風や河川によって海に運ばれる。海に運ばれた粘土鉱物は次第に海底に沈殿し、長い時間をかけて地中深くへと埋没していく。地中の深いところでは地表に比べ圧力・温度がともに高いため(圧力は海底の地表表面では水圧、地中深くでは地圧の影響を受ける。また、温度は平均30℃/kmで上昇する。)、地表では起こらなかった。または非常に緩やかに進行した反応・変化が急激に進行する。これら粘土鉱物の埋没に伴う構造変化・生成を続成作用と呼ぶ。
堆積したスメクタイトは堆積物中のアルミニウムイオンやカリウムイオンと反応してイライト・クロライトといった鉱物に変化する。この反応はある一定の温度・圧力で急激に進行するので、その条件に達するまでの浅い地層ではスメクタイトとイライトの層が交互に積層したスメクタイト―イライト混合層という漸次的な状態を介する。続成作用は圧力・温度の上昇に伴い水が失われるように反応が進むため、水が少なく密度の大きい鉱物へと反応が進行する。
埋没初期(浅い地層)では圧力・温度ともに低いため、粒子間の空隙率も高く水やイオンの移動・拡散が容易に進行する。このため、共存イオンの変化に富んでおり、様々な粘土鉱物が生成する。低温低圧化では粘土鉱物の基本骨格は変化せず、スメクタイトなど交換可能カチオンを有する粘土の陽イオン交換反応が進行する。淡水化のスメクタイトは層間にCaイオンを有していることが多いが、海水化に環境が変化すると海水中に多く含まれるNaイオン、MgイオンとCaイオンのイオン交換反応が進行する。また、続成作用初期での自生作用も小例報告されている。Feイオンが多く供給され、硫黄が少なく還元的な環境では堆積速度の小さい浅瀬でもバーチュリンやシャモサイト、グロコナイトなどからなる緑色の堆積物が観察される。また、塩湖や流水が穏やかで水の蒸発速度が大きい干潟などでは各種塩化物とともにスチブンサイト、サポナイト、ケロライトなどのMg系粘土鉱物やセピオライト・パリゴスカイトなどのリボン状粘土鉱物が生成する。
一方、埋没が進み温度・圧力がともに高まると、鉱物の岩石化が進行し粒子の空孔や流動性が失われるため、水やイオンの移動が困難となる。このため、風化作用が圧力・温度が一定条件下の組成に支配される反応であるのに対し、続成作用後期の反応は組成が一定(閉鎖系)の温度と圧力に支配される反応といえる。この状態の反応では堆積物の組成に大きく影響を受けるので、泥質、火砕岩質、珪質堆積物などそれぞれに特徴的な粘土鉱物の生成が見られる。
以下に続成作用で生成する主要な粘土鉱物の変化についてまとめる。

変成作用による粘土鉱物の合成
地中に埋没した後の地熱・地圧による作用を続成作用と呼ぶことは上で述べたが、さらに埋没が進行し高温・高圧下に置かれた鉱物が、粒子同士の接触面から圧力溶解を起こし再結晶化が進む。このような、温度が200℃以上、圧力が2000気圧以上で進行する作用を続成作用と区別して、変成作用と呼ぶ。反応が進行するエネルギーは地熱・地圧であり続成作用と同じだが、このような高温・高圧下では水がほぼ存在しない条件下で反応が進行するのが特徴である。
このような続成作用下では、上で述べたイライトとクロライトは黒雲母へと変化していく。さらに埋没が進むと全ての鉱物・岩石が高温により溶け始めマグマになる。地中深部で生成したマグマは火山の噴火などを通して再び地表に上昇し、岩石となり、再び風化作用によって粘土鉱物と変化していく。岩石・鉱物は地表→河川→海→海底→地中→地表という移動を様々な構造・形態をとりながら、無限に移動し続けているのである。
以下に、風化作用、続成作用、変成作用を通しての岩石・鉱物の変化の一例を簡単にまとめる。
| 作用 | 形態 | 生成する主な鉱物 | 特徴 |
| 物理的風化作用 | 岩石 | 元の岩石由来の様々な鉱物 | 地表に噴出したマグマなどの塊 様々な鉱物の集合体 |
| 礫 | 2mm以上の石・小石 | ||
| 砂 | 2mm以下の砂 | ||
| 化学的風化作用初期 | 粘土鉱物 | バーミキュライト スメクタイト |
岩石・鉱物の構造や組成に強く影響を受けている。結晶性は低く、粒子サイズは小さい。 |
| 化学的風化作用後期 | カオリナイト 金属水酸化物 |
岩石・鉱物の構造や組成に無関係。結晶性が高く、粒子サイズが大きい。 | |
| 河川・風などで海などに運搬され堆積・地中に埋没 | |||
| 続成作用初期 (浅い埋没) |
粘土鉱物 | 共存イオンによる様々なイオン交換体 | 共存イオンの変化に富んでおり(開放系)、様々な粘土鉱物が生成 |
| 続成作用後期 (深い埋没) |
イライト クロライト |
組成が一定(閉鎖系)の温度と圧力に支配される反応 | |
| さらに埋没が進行し、鉱物の置かれている環境が高温・高圧化 | |||
| 変成作用初期 |
粘土鉱物 | 黒雲母 | 高温・高圧下に置かれた鉱物が、粒子同士の接触面から圧力溶解を起こし再結晶化が進む |
| 変成作用後期 | マグマ | 全ての鉱物種が溶解 | 全ての鉱物・岩石が高温により溶け始めマグマに変化 |
| 火山の噴火などでマグマが地表に流出し、岩石となる(初めに戻る) | |||
熱水変質作用による粘土鉱物の生成
変成作用の項で述べたように、地中に存在する水も地表に比べ高温である。また、マグマや火山などの影響で地表付近にも高温の熱水が存在する(温泉など)。これらの熱水と岩石の相互作用による作用を熱水変質作用と呼ぶ。熱水変質作用によって生成する粘土鉱物は熱水の組成(溶解種・共存イオンなど)や温度など複雑な条件よって様々である。
酸性熱水による熱水変質作用で生成する粘土鉱物はカオリナイト・パイロフィライト・クロライトなどのAlを含むアルミノシリケート(アルミニウムとシリコンの酸化物)やクリストバライト・石英などの純シリカ鉱などである。熱水変質作用は、地中深部から地表に湧出してきた熱水と岩石の相互作用による反応であるため、熱水の通り道に近いほどその影響が大きい。また、深いほど熱水が高温であり、地表に向かって湧出する過程で温度の低下、様々な鉱物の溶解による溶解種・イオンの変化、pHの変化がおこるため、地下深部から地表に向かって、連続的に様々な粘土鉱物が生成する。一般的には、高温で安定なパイロフィライトに始まり、地表に向かってクロライト→クロライト―スメクタイト混合層→カオリナイト→ハロイサイトといった順に生成する。
一方アルカリ性熱水による熱水変質作用では、酸性熱水とは岩石から溶け出すイオンが異なるため、アルカリ溶液に解けやすいマグネシウム、ナトリウムなどを含む粘土鉱物が多く生成する。また、酸性熱水では少ないゼオライトが生成するのも特徴である。
これら熱水変質作用による粘土鉱物の生成は温泉での岩石表面の色の変化などに良く見ることができる。酸性熱水(酸性の温泉)で岩石表面が白くなっているのは、カオリナイト・ハロイサイトなどが生成しているためである。
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1.3 粘土鉱物の構造
粘土鉱物は無機結晶物質であり、組成や構造によって様々な種類が存在するが、その基本構造はどれも良く似ている。ここではこれら粘土鉱物の構造について解説する。
層状物質
粘土鉱物は一部の例外を除いて全て層状構造をとっている。層状構造とは、下の図に示すように、シートが積み重なった積層構造であり、紙の束のような形をしている。シートとシートの間には空間が存在する。

無機層状物質と呼ばれるもの中には、粘土や高温超伝導体に代表されるような魅力的な特徴を持つ物質系が多数含まれており、それらは科学や技術の重要な対象となっている。無機層状物質はその構造より、次のような特徴を有している。
・ 一定の性質を持つ積層構造単位に分けられ、すきま構造を持つため、設計性や機能付与性が高い。
・ 2次元的物性やイオン交換等の特異的な性質や機能を持ち、材料としての発展が期待される。
以上の特徴から、無機層状物質は、現在も新物質の合成、新機能や新応用分野の開拓等の多方面において展開を遂げつつある。
無機層状物質には、大別して
1)層間に陽イオンを含み、負に帯電した結晶層との間に弱い静電力が作用するもの
2)層間にイオンを含まず、結晶層は互いにvan der Waals力の水素結合だけで積み重ねられて結晶構造を保持しているものがある。
無機層状物質として以下に挙げるような例がある。
| 層状粘土鉱物 | モンモリロナイト、サポナイト、カオリナイト |
| 層状ポリケイ酸塩 | マガディアイト、カネマイト、ケニアイト |
| 層状複水酸化物 | ハイドロタルサイト |
| リン酸ジルコニウム | Zr(PO4)2H2 |
| 遷移金属カルコゲナイド | MX2 (M = Ti, Zr, V, Nb, Ta, Cr X = S, Se, Te) |
| 金属酸ハロゲン化物 | MXY (M = Ti, Zr, V, Cr, Fe, Al, Ga X = O, S, Se Y = Cl, Br) |
| 金属水酸化物 | Mg(OH)2, Ca(OH)2, Cd(OH)2, Al(OH)2 |
| 遷移金属酸化物ブロンズ | MoO3, V2O5, WO3, ReO3 |
以下に、粘土鉱物以外の代表的な層状物質について紹介する。
層状複水酸化物
ハイドロタルサイト類に代表される層状複水酸化物(LDH)は、次の一般式で表される。 [M2+1-xM3+x(OH)2]x+[An-x/n・yH2O]x- ここで、M2+:Mg2+, Mn2+, Ni2+, Zn2+ etc.、 M3+:Al3+, Cr3+, Fe3+, Co3+ etc. An-:OH-, Cl-, NO3-, SO4- etc. x=0.2〜0.33 結晶構造は、ブルーサイト(Mg(OH)2)と同様にM2+にOH-が六配位した八面体が稜共有で平面状に配列した層を基本構造とする。2価の金属水酸化物層に3価の金属イオンがランダムに置換固溶かしており、M3+の置換量に依存して層の正電荷量が決まる。この正電荷を層間アニオンが中和し、アニオンが占めた残りのスペースはH2Oが満たしている。したがって、層間アニオンはイオン交換可能である。このタイプの構造をとることが知られている陽イオンの組み合わせは大部分がM2+-M3+であるが、その他にM2+-M4+とM1+-M3+の組み合わせの化合物も知られている。 層状複水酸化物は、陰イオン交換能を持つ唯一の無機層状物質であり、高い陰イオン交換能や吸着特性を示すため、新規ホストとして注目されている。
金属水酸化物
ブルーサイト(Mg(OH)2)など代表される金属水酸化物は、M2+にOH-が六配位した八面体が稜共有で平面状に配列した層を基本構造とする。層同士は弱いファンデルワールス力で結合している。したがって、無機有機層間化合物の形成が可能となる。また、層表面は水酸基で覆われているため、有機修飾が可能である。
層状ポリケイ酸塩
層状ポリケイ酸塩は、粘土鉱物とは異なり、AlO6等の八面体層を含まず、SiO4四面体の3つの酸素原子を点共有した構造を基本単位構造として、2次元シートのみで構成されている。層間には交換可能な陽イオンと層間水が存在し、層表面にはシラノール基(≡Si-OH基)が存在する。またこれらの層状ポリケイ酸塩の多くは微結晶状態でのみ得られるため、詳細な結晶構造は明らかにされていないものもある。しかし、SiO4四面体層の縮合の度合いによって2つに大別できる。すなわち、単一層構造であるカネマイト、マカタイトなど、多層構造であるオクトシリケイト、マガディアイト、ケニアイトなどである。これらは、アモルファスシリカが利用されていた分野において、層状構造シリカとして高い機能性を付与させることが期待され注目されている。
層状粘土鉱物の構造
粘土鉱物は結晶質粘土鉱物と非晶質粘土鉱物に大別され、前者はフィロケイ酸塩である。ケイ酸塩鉱物の結晶構造は、イオン半径の大きい酸素原子の数と配置により決まる。ケイ酸塩鉱物の基本構造は、1個のケイ酸原子を中心とした四面体の各頂点に酸素原子を有する正四面体である。大部分のケイ酸塩鉱物は、この正四面体の3個の原子を隣接した各々の四面体と共有する事により、1次元的な六角網目状の層を形成している。このケイ酸塩層のほかに、O2-やOH-などの陰イオンが八面体の各頂点に各々1個ずつ位置し、その中心にAl3+,Mg2+などの陽イオンが存在し、各頂点の陰イオンが隣接した八面体とを結びつけ、二次元的な網状をなす八面体層がある。
下の図の右が、Mg、Alなどの原子を中心とし、酸素原子が六配位している八面体と、その八面体が稜共有(酸素原子と酸素原子を結んだ辺を共有している)によって二次元的な網目状を形成している八面体シートである。下の図の左が、ケイ素原子に酸素原子が4配位したSiO4四面体と、それが頂点共有によって六角網目状につながっている構造の模式図である。この様に、SiO4四面体が頂点を同じ向きにそろえ六角網目状にシートを形成しているものをフィロシリケートという。フィロシリケートの層からなる層状物質は存在せず、右図の八面体シートと結合して、一組のシートを形成している。上で述べたような層状ポリケイ酸塩はSiO4四面体のみからなる層状物質であるが、四面体の頂点が上下二種類存在するため、フィロシリケートとは構造が異なる。

これらの四面体層と八面体層との結びつきは、各層が1枚ずつの二層構造(1:1型)、二枚の四面体層の間に八面体層が挟まった構造(2:1型)、2:1型の層間域に八面体層が位置する構造(2:1:1型)、がある。また、八面体層において、八面体陽イオンの位置する場所全てを陽イオンが占めているものをtrioctahedral(tri亜群)、一部に空所(三ヶ所に一つの割合)をもつものをdioctahedral(di亜群)と名付けている。
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参考文献
粘土ハンドブック, 日本粘土学会編, 技報堂出版 (1987).
粘土鉱物学―粘土科学の基礎
, 白水 晴雄著, 朝倉書店 (1988).
粘土とともに, 古賀 慎著, 三共出版 (1997).
粘土の世界, 日本粘土学会編, KDDクリエイティブ (1997).
粘土科学への招待, 須藤談話会編, 三共出版 (2000).
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